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バーリ・トゥード2022/03/13

 川添愛さんという言語学者の著書「言語学バーリ・トゥード」を読みました。
読んでおもしろかった章について思ったことも交えて紹介します。







●AIは「絶対に押すなよ」を理解できるか
 この章では意味と意図の違いについて書かれています。

 意味とは文そのものが表す内容、単語なら辞書に載っている意味。
一方、意図とは図ると書くくらいですから「人が考えている内容」になります。

 読んで思ったのは、確かに意味=意図になるとは限らない場合があるということです。
特に日本ではストレートに表現しないという文化があるため、相手の意図(真意)を推測するという疲れる作業がついてきます。

 典型的な文例が「難しいですね」ではないでしょうか?仕事やプライべートでもよく使われると思います。
 ご存じのように意図はまずほとんどの場合「できません」「無理です」、これをストレートに言うと角が立ちますからね。

 贈り物やお土産を渡す時に「つまらないものですけど」と言うのは謙遜の類ですが、これは時代と共に変化していると感じます。
 今だと「これ絶対おいしいから」とか「気にいると思うよ」などと言って渡している場合も多いのではないでしょうか?

 本に書かれていた例は、ある女性が義母から受けとったLINEだかメールで「紅葉がきれいになってきました。明日さっそく見に行きます」とあったので、
「いいですね、いってらっしゃい」と返事を返した。
 あとで判明したところ、これは「明日、実家に来い」という意図があったということらしい。
そんなもの分かるわけないだろう!というオチ。

 相手が義母というところが地雷みたいなもので、実母だとこんなことにはならないでしょう。

 副題にもなっている AIは「絶対に押すなよ」を理解できるか ですが、
これは水槽の前でかがみこんでいるお笑い芸人が「絶対押すなよ!」と後ろにいる者たちに言っているコマーシャル(もう7年ほど前)に引っ掛けてあるのですが、もちろん意図は「押してよ」なのです。

 これをAI(人工知能)を搭載したロボットは「絶対押すなよ!」の意図を理解できるか?ということを問うているのです。
 笑いを取るために言っていることと真逆のことをやれるのか?ということですね。

このお笑い一般を理解するAIを作るのは至難の業であろう、ということを著者は言っています。

 著書ではさらに「回す」を例に挙げていました。
バトントワリングのバトンをくるくる回す、串焼きの串を炎の上で回す、扇風機を回す、命令者が言ってきたときAIは「命令者の意図どおり」にできるのかということ。
命令する側は単純な指示も格段に難しくなる、と書いています。

 思うに、介護ロボットが近い将来、現実化しそうな時代です。実際に誤解は起きそうな気がします。
 暑さを感じた被介護者が介護職員に「扇風機を回して」と言えば、介護職員が外国人であっても日本語が分かれば扇風機のスイッチ入れてほしいのだ、ということは判断できます。
 これが介護ロボットになると、扇風機を手にもってグルグル回してしまうんじゃないか、というような光景が目に浮かびました。

 「扇風機のスイッチを入れて」と正確な日本語で指示しないといけないのかもしれません。
でも将来のAI、そこまでバカではないのかな?

 さて、この「回す」で個人的に思い出したことが二つほどありました。
 昔、仲間内で飲み会をやっていた時、手が届かないところにある醤油瓶を指さして「ちょっと回して」と私が言ったところ、しょうもないギャグ好きの友人が「こう?」と言って醤油瓶の頭を指先で持ってクルクル回した。

 最近聴いた落語「茶の湯」という話の中では、お茶の作法を知らないご隠居が、茶碗の回し方がわからず「こうやるのか?」と言いながら両手で茶碗を持って体の前で両腕を回したり、左手で茶碗を持って体の後ろに回し背中側で右手に持ち替えて前に戻してくる、などのお笑い場面があるのです。

「回す」だけでもこれだけの解釈ができるのですが、さてAI は判断できるのか?

●恋人{は/が}サンタクロース
 ユーミンこと松任谷由美の歌ですが、歌詞全体を知らなくてもこのサビの部分とメロディーはよく知られています。
タイトルは「恋人がサンタクロース」、”恋人は”ではなくて”恋人が”なんですね。

 この章で著者は、「は」と「が」の違いを論じています。
「A(は/が)B」という文で、「は」の場合Aは旧情報であるのに対し、「が」の場合Aは新情報であること。
ってちょっと講釈が難しい。

 別の言い方で書いてあった以下の説明の方がわかりやすかった。
「AはB」というのはAとBは同じ属性・同じ性質つまり同一のものという意味、「AがB」はAがBという役割を担っているという意味。

 著書に「恋人がサンタクロース」の歌詞は載っていなかったので、ちょっとここで書いてみるとピンときます。

昔 となりのおしゃれなお姉さんは
クリスマスの日 わたしに云った
今夜8時になれば サンタが家にやって来る

ちがうよ それは絵本だけのおはなし
そういう私に ウィンクして
でもね 大人になれば あなたもわかる そのうちに

恋人がサンタクロース
本当はサンタクロース つむじ風追い越して
恋人がサンタクロース
背の高いサンタクロース 雪の街から来た
・・・

確かにこの場合は「が」ですね。

 私なりにちょっと考えたのですが、同じサンタで別のたとえで言うと、
子供が大きくなってプレゼントをくれるサンタの正体に気づいたとき「お父さんがサンタクロースだったんだ」と言うでしょうね。
お父さんは新情報で、サンタという役割をやっていた。

「お父さんはサンタクロースだったんだ」と言うと、お父さんの仕事は世界中を飛び回るサンタクロースだったのか、ということになってしまいます。

 笑いを取ろうとする「意図」がある文面が多いのと著者の好きなプロレスからの引用がちょっとくどい、と感じましたがユーモアあふれる内容で言語に関することがおもしろく読める本でした。

 ちなみにバーリ・トゥードというのはポルトガル語で「何でもあり」という意味で、ルールや反則を最小限にした格闘技の1ジャンルを指します。
出版側から何を書いてもいいですよ、と言われたことでこのタイトルにした。
と注文(ちゅうぶん)に書いてありました。

ばってんT村でした。

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