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字幕翻訳と原書翻訳 ― 2022/12/30
最近読んだ本から、今回は映画、及び書物の翻訳の話です。
こんな本

外国映画の日本語翻訳にはご存じのように、字幕と吹き替えの2種類があります。
字幕翻訳の場合、書物の翻訳と違って様々な制約がありますが、著書からピックアップして紹介します。
まず字数の制約です。俳優がしゃべっている時間しか字幕は出せません。
訳文が長すぎて観客が読み終わらないうちに次のセリフに移ってしまうなんてことは絶対にできないのです。
これにはセリフ1秒につき4文字という原則があるとのことです(漢字もひとつで一文字。例えば風(かぜ)は2音ですが一文字)
表意文字である漢字はこういう時に便利ですね。
著者が過去に翻訳した、こんな男女の会話例が出ていました。
むっつり黙り込む女に男が問いかけるシーン。
男「どうしたんだ」
女「あなたが私を落ち込ませているのよ」
男「僕が君に何かしたか?」
吹き替えだとこのままでOKなのですが、原語では三つとも1秒チョットのセリフなので字幕だとすべて5文字以内にしないといけない。
女のセリフが超難関。
著者はこう訳した。
男「不機嫌だな」
女「おかげでね」
男「俺のせい?」
苦肉の策だ。やはり女の「おかげでね」というせりふはちょっと苦しい。皮肉のつもりなのだがすんなりわかってもらえるかどうか。
と所感が著書に書かれていました。
英語が聴き取れる人であれば、この女のセリフを聞きつつ字幕を読むと「そうは言っていないんだけどな」となるでしょうね。
映画のセリフを聞いて翻訳するなんて字幕翻訳者の言語能力ってすごいな~、と昔から思っていたんですが、字幕制作の手順はそうではなかった。
映画のビデオテープ(今だったらDVDかデータでしょうか?)と言語台本が渡される⇒
翻訳者は台本を読んでセリフごとの区切りを入れる⇒字幕制作会社に渡すと専用マシンでセリフの長さをひとつずつ測りリストにする
⇒そのリストを受け取って翻訳の開始となる
同じセリフでも俳優やその時々のシーンによってしゃべる速さは変化すると思うのですが、そのへんは最後に調整するのでしょうね。
1週間ほどで1作品を翻訳、締め切りもハードで3~4日で完成させる時もあるとのこと。
ちなみに著者の太田さんは翻訳の時には辞書を引きまくるそうだ(引き倒すと書いてありました)
著者は続けて、
外国語堪能というにはほど遠いのでいつも不安で不安でたまらない。
台本は訳語の書き込みだらけだ。仕事が終了して台本を映画会社に返却したとき、書き込みがそのままだと
「え、オオタってこんな単語も知らなくて辞書を引いたのか?」とあきれられそうなので、最後は必死で消しゴムをかける。
とある。
意外だった。
他の字幕翻訳者に話が飛びますが、昔から洋画をよく観ている人だったら、スクリーンの端に表示される戸田奈津子さんという名前に見覚えがあるのではないでしょうか?
御年86歳で今年引退されましたが、年間50作品を30年以上翻訳された、字幕翻訳の第一人者です。
この方、ハリウッド俳優が来日した時はたびたび通訳もされていたので、字幕翻訳をされる人はさすが会話も堪能なんだなと思って見ていました。
戸田さんは自分の英語は中学英語が基礎だと言われています。
また過去のインタビューで「大事なのは日本語です。本を読みなさい。日本語を知りなさいっていうことです」と答えられています。
さて、本の題名に「・・・日本語が変だと叫ぶ」とあるように著者のぼやきや嘆きも網羅されています。
漢字に関しては、九割方の観客がほぼ読めるであろうものだけを使おうと日々知恵をしぼる、とあります。
字幕で使える漢字は基本的に常用漢字で、外れると指摘される。
常用漢字から外れるので「比喩」にルビをふりましょう、と映画会社から言われたときは、それくらい読めそうなものだろうと愕然としたそうだ。
でも、「比ゆ」と混じり書きされるより、よみがなをふるほうがましだ、と。混じり書きは許しがたい、と嘆いていらっしゃる。
確かに新聞などで時々見かける漢字とかなの混じり書き、瞬時に意味がつかめません。
「拿捕」を「だ捕」とするなどです。
新聞は読み返せるので読み返せば理解することはできますが、映画で字幕を読むのは一回だけ、それも一瞬です(家で映画を観ているのであればまぁ、巻き戻しはできますが)
禁止・差別用語が使えない、俗語の意訳が難しい、さまざまな分野(ファッション、音楽、スポーツのルールなど)の知識が広く浅く必要だなど、面白おかしい内容ながら、読んでいて字幕翻訳の苦労が偲ばれる本でした。
もう一冊読んだ本はこれです。
以前「コールセンターもしもし日記」という本を紹介しましたが、そのナンチャラ日記シリーズの中のひとつです。

中身は翻訳時の苦労話というよりも、出版社との壮絶なバトルが主に描かれています。
翻訳報酬や印税を値切られるとか、翻訳した本が契約通りに出版されず最終手段として裁判に訴えることにしたなど。
私がこの本で初めて知ったのは、翻訳者が翻訳した本をいつ発行するかを決める権利を有している、ということです。出版社ではないのですね。
若いころから翻訳したいと夢見ていた原書、その第2弾の短納期の依頼に関して著者曰く
「でも私ならできる。なぜならすでに原書を何度も読み込んでいる私には解釈にかかる時間が不要だからだ。しかもわたしの英語の語彙力はハンパない。
知らない単語など原書1冊の中でも数えるほどしかない。そんな私が原書をそのまま同時通訳ならぬ「同時翻訳」すれば、トム・クルーズ扮するイーサン・ハントよろしく、他人が5年かかることを92日で終わらせる、という芸当が可能になるのだ」
と自分を鼓舞し引き受けるくだりがあります。
上記に出てくる、トム・クルーズ扮するイーサン・ハントとは映画「ミッション:インポッシブル」シリーズの主人公の名前です。
字幕翻訳は前半に書いた戸田奈津子さんがシリーズを通してされています。
この本も別の意味で面白く一気読みしてしまいました。
ばってんT村でした。
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